001.ガタカ
ガタカ/アメリカ/1997/アンドリュー・ニコル
総評
キーボード殺人事件
あらすじ
遺伝子組み換え操作の試験官ベイビーが当たり前になった世の中。
人々は遺伝子の優劣で仕事や待遇が決められていた。
主人公ヴィンセントは遺伝子操作をしていない不適正者。優秀な遺伝子を持った者だけがなれる宇宙飛行士の夢を諦めなければならなかった。しかし、彼は事故に巻き込まれ歩けなくなったジェロームの身分を借りることで宇宙局の局員になることが出来たのであった。
見事、宇宙飛行士への切符を手にしたヴィンセントだったが、上司の殺人事件をきっかけに自身の正体が明かされる危機が迫る。
感想
この映画を初めて見たのは高校の心理の選択授業だった。
試験官ベイビーについての考えるきっかけになって欲しいとのことでの視聴だったが、普通にめちゃくちゃいい映画だった。
自身の限界は自分で決める。限界なんかない。
私も同級生も強く感銘を受けた。
が、しかし。
ヴィンセントの正体が周りに発覚するきっかけとなる殺人事件。
この事件の凶器が私の中で一番の問題だった。
上司の脳天をガツンと打った問題の品、これがパソコンのキーボードなのだ。
当たり前のように血まみれのキーボードと衝撃で飛び散ったボタン。そして、真顔でジップロックにしまう警察官。
おかしいだろ。
私はこのシーンを見たとき動揺した。一緒に見ている同級生たちも驚いただろうと咄嗟に薄暗い教室の中を見回した。が、しかし、誰も驚いてない。真剣な眼差しで映画を見ている。
まじか。私の脳裏にはその言葉だけが浮かんでいた。
なぜだ。なぜ、もっと殺しやすいもので殺さない。
百歩譲って殺人現場が宇宙局の中、そして計画的な犯行でなかったのだとしても、キーボードよりは確実に殺せる品があるはずだ。体力測定のためのランニングマシーンとキーボードだったら、絶対前者の方が殺せるだろ。
あと、殺された上司はヴィンセントの身分詐称を告発しようとしていて、それを見かねた宇宙船船長が口封じのため殺したのが動機なんだが、ばれちまったじゃねーか。墓穴を掘るな。せめて、他人のキーボードで殺せ。なぜ、よりにもよってヴィンセントのキーボード使うんだ。しっかりしろ。
犯行に使われたキーボードからヴィンセントの毛髪だか唾液だかが見つかり、容疑者として浮かび上がり、ヴィンセント、ピンチ!!!!!という物語的に重要なターニングポイントなのだろうがやっぱり、キーボードじゃなくていいだろ。
ヴィンセントが使ってたランニングマシーンでも別によかっただろ。
その後、何が起きても心は完全にキーボード殺人事件に持ってかれてしまった。
ヴィンセントと、優秀なヴィンセントの弟・アントンが泳ぎを競うシーンとかすごく胸を打たれるのだけど、脳裏に赤いキーボードがちらついて仕方がなかった。
教室での上映が終わり、部屋が明るくなると皆一様に目を腫らし、涙を目元に溜めていた。私はとても悲しくなった。
こんなにもたくさんの人が心を揺り動かされたのにも関わらず、私はキーボード殺人事件で脳天をぶち抜かれただけ。
私は家に帰って、自分の心の浅はかさに胸を痛め、その夜泣いた。